水に託して

北欧伝承かなんかだったような、もしくは私が触れた人魚姫のヴァリエーションでそういうものがあったような気がするんですが、水に手を浸すと遠くに離れた人にも気持ちが伝わる、みたいなお話があって、ある共通の特徴をもった者同士の伝達手段になっている、そういう水の話。共通の特徴が人種(マーメイドは人種といっていいのかわからないけど)とか同郷とかそういうある固有の文化を共有している者たちの話、もしかしたらアイヌの話であったのかもしれない。
とにかくあの滑りを見て、私はそれを感じたのでした。というか多分それビョークのファンに伝わっているビョークのもつ世界観の一部なんだろうと思うのだけど。アイスランドにもしっかり根ざしている北欧伝承がまず浮かんだから。そしてビョークの歌に込められている風景が私にやっと見えたと思った。精霊とか自然(森や風や水や火や動物)を大事にしてるんだろうなとそれがアイスランドの文化なんだろうなと思った。歌詞の訳を日本語として整える作業をしている時にwhaleがまず目について、ああそうだあそこらへんは日本と並ぶ捕鯨国だった、となぜか納得してしまった。北欧伝承の生々しさはまだしも全編に漂う男性的(キリスト教的父権とはまた違うもっと荒々しく乱暴な根源的な力強さ)な所は苦手なんですけど、それは不思議と感じなかったなあ。北欧伝承の精霊の存在はとても好きで、そっちのイメージがきた。水の精霊だからウンディーネ(オンディーヌ)のイメージなんだと思う。精霊の持つ美しさと怖さがあった。
私、森の奥にある湖や泉の風景描写がとても好きなんですよ、いきなりポッカリ水があるっていう設定が。実際に日本の中でそういうとこにいってもそんなに感動しないんだけど、自分でその風景を思い描くのは好きなんですよ。深い暗い森の中に透き通る水がある場所、それは日本じゃなくてヨーロッパ(多分東欧)の深い森。そしてそこを思い描くととても懐かしい気持ちにもなる。そもそも私は日本的な田舎に実際に行くのはちょっと苦手だ。居場所がない気になる。私が心で思い描く森の暗さは日本の森の暗さじゃない。
私は海を見て育ったから四方が山に囲まれているような所は基本的には苦手なのですが、多分その深く暗い森を持つ国か地域には海がないんだよね、でもそこはとても懐かしくなる。泣きたくなるほどに。どこにあるのかわからないけど、自然の中の清らかな水に手をつけると繋がるような気がして、とても小さな頃から湧き水なんかが出ている所にいくと手を浸すのがおまじないみたいになってた。なんのおまじないだかしばらく忘れていたけどとりあえずやっていた行為の意味を今さっき思い出して衝撃が走った。
あの場所はスラヴ語圏だと思うんだけど、ロシアじゃない気がするんだよなあ。チェコとかそこらへんなのかなあ。深く暗い森なんだけど、あれは絶対ドイツじゃないと思っている。私、ドイツ語の響きに対する拒否感が尋常じゃないんだ、本当に小さな頃からだしドイツという国自体が嫌いではないから理由はわからないけど、ドイツ語の音に対する生理的拒否感がひどい(アメリカ英語にもちょっとこの感覚あったけど克服努力中、イギリス英語にはそれほど抵抗ない)。だからドイツっぽい森なんだけどドイツ語じゃない所となるとチェコなのかなと思う。言葉の意味はわかりませんが、スラヴ語とフランス語とポルトガル語の耳なじみは非常にいいです。意味がわからないから耳なじみのよさがかえって際立ちます。不思議なことにラテン語圏でもイタリア語とかスペイン語は押しが強過ぎてちょっと苦手です。