努力は人を裏切らない

全日本フィギュアスケート選手権、初日と二日目を生観戦してきました。
自分自身との闘いに負けなかった人が結果を残した試合だったと思いました。

私のスタオベ回数計6回。以下内訳。
男子SP:神崎範之選手のボレロ高橋大輔選手のチャイコン
女子SP:太田由希奈選手の白鳥の湖中野友加里選手のSAYURI
男子FS:南里康晴選手のカルメン高橋大輔選手のオペラ座の怪人

・男子SPの南里選手もよかったです。思わず隣の人に「南里くん、今季一番いい出来じゃないですか」と話しかけてました。FS終わった時に、会場来てよかったと思いました。NHK杯の高橋選手を見た人達の気持ちに近かったような気がする。一皮剥けたというか、殻を打ち破ったというか、南里康晴はこういう選手なんだ、とわかった気がします。あの衣装よく似合うカルメンだった。

・公式練習とか6分練習とか見てて、スケーティングがずば抜けてうまい選手(具体的に名前出すと、男子は高橋・小塚の両選手、女子は村主選手)は腹の底から響くような地鳴りのような、他の選手より深いところから音が出ていて、なるほど、これがディープエッジの音か、と納得しました。織田選手もそこそこそういう音がしてた。高橋・小塚はともかく村主選手のスケーティングはうまいけどフラット気味だと思ってたので、音が意外だった。

・2日目、会場着いたらちょうど男子FS最終グループの練習やってるところだったのですが、小塚選手の正確なトレースがまず目に飛び込んできてびびった。規定時代の選手かと思った。私だったらコンパス使っても書けないような綺麗な円を何重にも描いてるのに全くずれてなく、そっちに意識いってないで佐藤信夫コーチと話しながら足だけ動かしてそんなことになっててびっくりしたというか、小塚選手の記憶はそれしか残ってません。それほどうまかった。久美子コーチが世界で一番上手にステップが踏める、みたいなこと言ってた(よね?)の納得した。

・もともと今回全日本に唐突に行きたくなって手配したのは、神崎範之というスケーターをこの目できちんと見て、彼と高橋選手のオペラ座対決が見たかったからなのです。だって、高橋さんはもっと見れるだろうけど、神崎さんはここで行かないと東京在住の私は、きっともう生で試合を見れないと思ったから、噂に聞いていたトリプルアクセルを飛べる京大生スケーターを見逃したくなかった。南里選手の覚醒の瞬間に立ち会えたのはちょっとしたサプライズだったけど、神崎選手は見たいものを見せてくれた。不覚にも、キスクラで濱田コーチの泣き顔が映った瞬間にもらい泣きしてしまいました。あの涙でそれまでやってきたことが伝わってきたので。

・織田選手はずっとなんか調子悪そうで、あれはプレッシャーだったのかなあ。あれでよくジャンプ降りてた。彼がコケた、というより、彼だから一度しか転倒しなかったんじゃないかと思った。でもねえ、チャイコの4番でデビッド・ウィルソンが彼に何をやらせたいのかわかってきたよ。本当に悔しい思いをしただろうし、それを彼は真っ正面から受け止めたから泣いたんだろうし、だからこの選手はまだまだ伸びるんだと確信した。シーズン後半が楽しみです。

・小塚選手の正確なトレースと同時に度肝を抜かれたのは公式練習での高橋選手の風格で、この人こんなに王者の風格みたいなのあったかしら?いやでもねえ、まだその兆しが…くらいだと思うんだけど、現場で風圧みたいなのがあったよ。やっと歯車がかみ合ってそれが出始めてきたけどまだ試運転中みたいな王者の風格。これが本格的に出てきたら大変なことになるよ。こっちもそれなりの覚悟でいかんと蹴落とされるよ。

・その逆の風格が出てきていたのが村主選手で、女子SPの6分練習の時に、いわゆる「章枝ワールド」と言われるものの質が変わっていたような気がして、全盛期を過ぎて円熟期に入った名人芸の人、なんか落語家とかで人間国宝にされた人が技術より間の置き方で魅了するとかさ、それこそホロヴィッツがアンコールでトロイメライを弾いて喝采とかさ、そういう域の風格のような気がしてね、アーティストとしてはそれで全然成立するんだけど、アスリートとしてはどうなんだろう?と思ってたら、やっぱりフィギュアスケートって厳しいなあと。フィギュアスケートはアスリートだけでもダメ、アーティストだけでもダメな欲張りなものなんだなあと。アスリートとアーティストの両立って本当難しいと思う。

・けどそれを本当にハイレベルなところでやってしまったのが全日本男子FS最終滑走の高橋大輔選手でした。NHK杯オペラ座の怪人は、スポーツとしてはこれでいいんだろうけど、と思ってしまってて。私は贅沢で強欲なファンだからかNHK杯で4Tが入った所が音と着氷のタイミングがずれてたのが気になってて。ところどころそういうところあったから、キャンベルの3Fのあのバシッと全員のアインザッツが合った!みたいな快感をまた味わえないものかなあ、でも4回転入れるとなるとタイミングとるの難しいのかなあ、そういうとこは妥協して応援してりゃいいのかなあ、などと逡巡していたのですが、それが4Tでキャンベル並にバシッと合ってクリーンに着氷してぶったまげた。2日目は関係者席の近くにいたのですけど、関係者席に座っていたコーチ陣が全員「オー」と、ドイツW杯代表発表時の巻の名前が出た瞬間の報道陣のような声を出してた。

・私がオーディエンスにいて、その場にいる全員とこんなに一体感を味わったのはサイレンススズカが骨折・競争中止した時の東京競馬場ジョアン・ジルベルト初来日公演千秋楽の時に続いて三度目です。それぞれ種類は違う一体感でしたが。ジョアン・ジルベルトはわりかし近いか。

・村主選手はあのジョアン・ジルベルトのステージに移行しつつあるのかなとも思いましたが、彼女は中山雅史ミスタートウジンのような存在であると思いますので、まだまだ現役にこだわってほしいというか私がわざわざ言わなくたってこだわるでしょう。今まで彼女が色々乗り越えてきた姿を見てきたのだから、更に乗り越えた村主章枝を見たいです。

太田由希奈選手は別物でした。彼女の滑りに一番「スケート、ピュアラブ」を感じました。「スケート、ピュアラブ」はいいもんです。

中野友加里選手はいい顔をしていたので、これはやれるかな、と思った。余計な力みや気負いのないとても清々しい顔。もともと技術がある選手として出てきて年々芸術性を身につけていってるので、大学卒業してもスケート続けて欲しいです。これで自信がついたら試合で3-3いけそうな気もする。やるかやらないかはわからないけど。女子FSはテレビで見たけど最初の3Aが決まらないのすらシンデレラのストーリーにハマってたね。高橋オペラ座のジャンプが入らない時によく言われてたことの意味がなんとなくわかった気がする。

・今でも頭の中で意外と一番回ってる音楽はシェヘラザードです。あれで怪我してるなんて気付かなかった。本人と曲のマッチングが生でみると思った以上だった。

浅田真央選手が登場してきた時に、小さい子たちの「まおちゃーん」という声が自然発生的に各所からあがってて微笑ましかった。こういう試合は小さい子にどんどん見せるべきだと思う。音楽聴きにきてるんじゃないんだから堅苦しいこといわなくていいと思う。スポーツだもの。近くにいた小さい子の憧れで満たされた目を見たら、あまりの純粋さに泣きそうになった。ちびっこの成長のためには憧れってものすごい栄養だと思うので、「まおちゃん」がかっこいいと思いました。私から見ると浅田真央選手は十代の若いスケーターですけど、ちびっこからみたら憧れのお姉さんなんだろうなと思って。いやわからんけど。お姉さんじゃなくてスターなのかな。でも、とにかく、子供を惹き付けるのはそれだけですごい。子供達の未来に影響を与えるわけだから。

何はともあれ選手の皆さんお疲れさまでした。