トロイメライ的実存、そして山瀬と今野おめでとう

私が音楽を演奏する人間であった時、あまりにも自分が演奏するとハマりすぎて嫌な曲がシューマンの『トロイメライ』でした。洗練されたフランス音楽や変拍子炸裂のロシア音楽が好きな人間だったので、ドイツのこの野暮ったく構成もシンプルな曲に私の出す素朴な音色が相まって自分の田舎者っぷりを強調されるようで嫌でした。私が音楽を演奏する人間であった時は私が田舎者であった時期です。常に都会に憧れる事を忘れなかった田舎者であった時期です。あの頃は『トロイメライ』という曲を憎んでさえいたかもしれません。もっと他の人のような軽やかな音を出したくてずっと悩んでいました。からっと明るい音を出したかったです。しっとりとした温もりなんか疎んでいました。

カミーユ・クローデルセイレンを思い出していたら、頭をよぎったのが映画『非情城市』でトニー・レオン演じる唖の男に、彼を慕う女性がローレライのレコードをかけて、手話でどういう曲なのか説明するシーンで、なんだかあれってローレライ伝説を説明してたんだっけ?それともローレライの旋律自体を説明してたんだっけ?と記憶があやふやになってて手繰り寄せようとしていたらローレライのメロディとトロイメライのメロディがまざってきて、ああトロイメライっていい曲だなあとやっと受け入れることができて、『非情城市』という映画はどんどん重苦しくなっていくのですけど、だからこそ、あのローレライのシーンの温かさが美しくて泣ける所でもあって、それにつられて私はやっと自分のトロイメライを受け入れることができて、トロイメライというのはドイツ語で「夢」という意味の言葉なので、私は大事なものを受け入れることができたような気がして今とても嬉しいです。今となっては私が音楽を演奏することができていたのが夢のようなものなので、演奏者としての自分を整理できて夢に昇華できたのはいいことなんだと思います。私がトロイメライを疎んでいた頃夢の世界だった都市に私はもう10年くらい暮していて、きっとこれからもずっとここに定住していくという気持ちもあります。だから、あの頃の夢は叶って、子供の頃を夢として受け入れることができてとてもとても嬉しい。成長することはいつだって喜ばしいことなのです。

関係ないけど、田舎者から都会人になりたくて頑張っていた大学生の一時期トニー・レオンがものすごく好きで出演作ガンガン見まくっていたのだけど『非情城市』と『恋する惑星』と『シクロ』の3本のトニー・レオンがあればだいたいこの人については事足りると思うから興味のある向きはこの3本見たらいいと思うよ。

で、私が田舎を出てから田舎にJリーグのサッカーチームができまして、とりあえず喜ばしいと東京で応援しとった。そんで東京で試合がある時見に行った。
そのシーズン、小倉隆史がうちにいて、本来だったら海外で活躍していたオグがこんなところまで、という気持ちと、あのオグが私達の所にきてくれた!という気持ちで複雑だったけど、とりあえずうちにとって大事な戦力であったのは確かな事実であったので応援しにいった。

その時のうちの主力はオグと山瀬と今野で、今はみんな違うところにいるけど、それでも山瀬と今野がオシムジャパンに選ばれたのはとても嬉しい。山瀬は道産子だし、怪我に悩まされててやっと復活してきた所で選ばれたので特に嬉しい。今野だってうちで育って大きく羽ばたいていったのだからもちろん嬉しい。これに加えて新居が選ばれてたらどんな気持ちになっただろう。新居はまた違うからな、でも、私は、今の新居を見ていて、そんなに悪い気はしないのです。多分それが道産子気質でトロイメライが似合うような人間性なんだと思います。

あのホロヴィッツの弾くトロイメライYouTubeにアップされてた。やっぱYouTubeすごいわ。
http://www.youtube.com/watch?v=qq7ncjhSqtk