非絶叫派スポーツ実況アナ対談がすごすぎる件

一部のサッカー好きだけのものにしておくにはもったいない!全てのスポーツを愛する人々、とりわけスポーツ実況やスポーツマスコミに興味がある人間には、山本浩アナと倉敷保雄アナの対談本は、自信を持っておすすめしたい!サッカーのことわからなくても充分に読み応えがある!あの名調子が頭に浮かぶからすらすら読めるんだけど、文章になっても一語たりとも無駄がなく、奥行きが深すぎる!スポーツマスコミの中心にいる人達だからこそ言えること、スポーツマスコミの中心にいる人達なのに言ってしまっていること、両方すごい。

実況席のサッカー論

実況席のサッカー論

今のフィギュアスケートの状況を目の当たりにしているファンとしての視点で心に残った発言を引用。

倉敷:僕は、最近は日本は日本でいいんじゃないかと思うようになっちゃったんです。フィギアスケート*1を見ていて思ったのですが、日本のファンというのはとても優しいんです。海外の選手でも、素晴らしい人には一様に拍手をする。高橋大輔や、安藤美姫浅田真央だけじゃない。むしろそれよりステファン・ランビエールが好きだったり、カロリーナ・コストナーが好きだったり。美しいものは美しいと素直に認めている。これは素晴らしいことだなと思ってしまったんです。
(P136「ホームアンドアウェイの文化」より)

倉敷:難しいなと思うのは、どうしてもスターを若年齢のところに設定しようという傾向がマスコミ全体としてあることです。子供がそういうことから自分を守るのは、難しいと思うんです。試合に勝ったら、次の日からテレビがいっぱい来る、新聞がいっぱい来る。僕なんかだったら有頂天になってダメになってしまうと思うんです。だから、日本のスポーツ文化ってまだまだなんですよね。
(P144「ハングリーの意味」より)*2

山本:日本のスポーツ界の現場はどちらかと言うと、科学の専門家との連携が得意じゃないんですよ、現場の人達は科学が得意じゃないし、科学の人達は現場の指導をしない。サッカーは進んでいる方ですが、そういうものをもっともっとこれから融合しないと。(以下略)
(P153-154「時代の変わり目に」より)

あくまでも「フィギュアスケートファン」としての視点で、ごく一部抜き出してみました。他のファクターでとらえるとまた全然違う部分が気になったり心に刺さったり、自分の読み手としての位置を意図的にずらして読むと全然違う風景が見えたり、まあとにかく情報量が半端ないです。
あと、NHKはスポーツを「できごと」、民放は「商品」として扱っている、とおっしゃっていて、グランプリシリーズの扱いの変わり方に戸惑ったのが最近のことなので、非常にリアルに感じました。といっても、NHKサイドの山本アナも民放サイド*3の倉敷アナもサッカー実況非絶叫派なので、実況を始め、もっとやれることはあるだろうなあとは思うのだけど。
ご両人とも、サッカー馬鹿でありながら、他の分野への造詣も深く多芸多才な方々なので、表面的には楽しませてくれる言葉が並んでいるのですけども、その底流にあるスポーツをとりまくシリアスな状況への問題意識に触れ、うちひしがれる余裕もないほどに自分も必死に考えました。
スポーツをとりまく状況は本当にシビアなのだけど、選手も監督などの関係者も報道の関係者もファンも一体となって当事者意識をもって取り組めば少しずつ良い方向に変わるだろうなあと思います。一番の問題はそこにある問題に気付いていなかったり気付いていても放置している人々があまりにも多いことで、山本さんや倉敷さんのような極めて優秀な人材を特別扱いするのではなく、彼等のあとについて本気でその問題に取り組む人が少しずつでも増えていけばいいなと思ったし、私はもちろん彼等の向かっている方向を目指そうと思いました。
言葉も出ないとかぼやいてる場合じゃなくて、無理やりにでも言葉を出さなきゃいけないと思いました。

追記:倉敷アナのこの本出たときのインタビューあった。
http://openers.jp/culture/cspecial/culture_special_kurashiki01.html
http://openers.jp/culture/cspecial/culture_special_kurashiki02.html
http://openers.jp/culture/cspecial/culture_special_kurashiki03.html

*1:原文ママ

*2:ここは、山本アナによる更に示唆に富んだ発言が続くのですが、長くなるから引用やめた

*3:正確にいうといわゆる「民放」じゃないんだけどさ