真摯な業界人

フジとJSPORTSのフィギュアスケート中継ってどうなってるんだろう?と検索してたら見つけたフジテレビディレクター・木村英輔氏のインタビュー。
http://www.tvco.tv/interview/index.php?action=detail&id=92
http://www.tvco.tv/interview/index.php?action=detail&id=93
http://www.tvco.tv/interview/index.php?action=detail&id=94

フィギュアスケートというせまい世界からの質問ではなくて、テレビ業界の人が一つのコンテンツをどう見せようとしてるのか、という切り口からたまたま題材としてフィギュアスケートをとりあげてインタビューしてるフォーマットだから新鮮だし、フィギュアスケートファンが読みたかったものでもあるし、どうしてこういうことをフィギュアスケートジャーナリズム(ってものはあるのかわからんけど)側が引き出せなかったのかな、という悔しい感じもある。さっくり深いこと訊いててそれに答えてて、ああ、いい仕事をしている人達だなあと。

「残酷で、世界一美しい物語」というコピーがありましたが、あれはテーマでもあるのでしょうか?

そこまで大仰に扱っていませんが、確かに残酷といえば残酷なスポーツなんですよ。メインキャスターの国分太一さんが、初めてフィギュアスケートを見たときにいっていた言葉でもあるんですが、あれだけキャリアもある人でも、自分には絶対にできないという。あれだけ広大な舞台の中で一人きりになり、1万人近くいる観客の前で演技をするなんてできないと。国分さんは以前に一人芝居をやったことがあるんですが、数百人のお客さんを前にしただけで足が震えたそうです。それを踏まえてみれば、フィギュアスケートはどれだけ過酷なんだというわけです。しかも、その上に優劣をつけられるというのも、ある意味残酷な話なんですね。 国分さんをキャスティングしたのも、そうした視聴者目線でのコメントをいただきたかったからでした。バレーボールなら得点が決まったかそうでないかで一喜一憂できますけど、フィギュアはなかなか難しい。例えば浅田真央選手の演技が終わったあとは、「すばらしい演技でした」とアナウンサーが順位に対して煽っていき、解説者が内容を振り返ってジャンプなどの評価をする一方で、国分さんは「真央ちゃんには子供からの歓声が多いですね」と会場にいる人の目線からのコメントをもらえる。競技として冷静に演技内容を振り返ることと、ひとつの作品として純粋に感動することを、同時に両立させないといけないのですが、国分さんにはとても大きな役割を果たしていただいていると思っています。

フィギュアスケートの中継において、実況アナウンサーにはどんなことを求めますか?

解説者もそうですが、できるだけ必要最低限のことしか言わないようお願いしています。音楽を聞かせたり演技に集中するため、なるべくコメント量を少なくしたいんです。しゃべりすぎだと批判も多いですし。 もちろん、ルールや点数に大きな影響を及ぼすような部分に関しては、しっかりと説明しなくてはいけません。演技が終わってから得点がでるまでも長いですから、そこでも必要な情報を出すようにしています。

今後の展望や克服していきたいことはありますか?

常に新しいことはやっていかなければならないと思っています。あと、ペアやアイスダンスにも注力していければいいですね。この種目の人気が高まれば、フィギュアスケート人気もより盤石のものになっていくんじゃないかと思います。今のスポーツ番組は「がんばれ日本」的なものばかりですけれど、フィギュアスケートは選手の個性が強い競技で、どうやっても「チームジャパン」みたいな感じにはならないので、あまり「がんばれ日本」という演出はしていません。だからアイスダンスやペアにも可能性があるのかもしれません。 あとはカメラの撮り方でしょうか。スロー再生との同時2画面表示をやってみたり、演技後に選手とコーチのガッツポーズを同時に出してみたり。個人的に、スポーツ番組には演出のニオイがなければないほどいいと思っています。ワンカットごとに大切な意味を持たせながらも、視聴者はそれと気づかずに自然に終えられればいいんです。制作者側のエゴにならないよう気をつけながら、これからも新しいことにチャレンジしていきたいですね。

昨今のフィギュアスケート人気は芸術でもスポーツでもなくて、選手を『アイドル』として見られていること、扱われることが何より悔しいし危機感を持っていたし、そういう扱いを煽るメディアも多いし、このまんまだと、つい最近のアメリカでフィギュアスケート人気がミシェル・クワンというアイドル人気に変質していって、そのクワンが消えたら一緒にフィギュアスケート人気も消えたってことがありましたけど、日本も間違いなくその道をたどるなあと、浅田真央が現役のうちに手を打たないと、など勝手にあせっていたんです。

ジャパニーズスポーツアイドルとして活動することを受け入れた系譜としての『ヤワラちゃん』『愛ちゃん』『真央ちゃん』/一方アイドルになることを頑なに拒否した上村愛子安藤美姫、このあたりのことなんかもうだうだ考えていたんですけど、当たり前ながらフジの現場のディレクターは私なんかよりずっとずっと真摯に考えているのだなあと。アイドルはいらない、スポーツが見たい、そう願いながらも、アイドルを作らなきゃ人気も出ない放送もされない、というマイナースポーツファンなら誰しも抱えるジレンマ。そのジレンマを少なくとも受け取ってくれる人がフジテレビではフィギュアスケート番組を作っているのだなあとは思いました。フジの中継、民放の中ではダントツに見やすいですもんね、上で引用している部分でダメ出しされてるのに担当者が無視してる部分除けば。
『当たり前ながら』と書いたけど、実はこの『当たり前』がなかなか見当たらない感じになっちゃった。それはフィギュアスケートにとって不幸なことだなあと思う。人気にぶら下がって中途半端なものばっかり乱発してるとどんどんダメになっちゃう、信用がなくなっちゃう。大事なものがすり減っちゃう。私達が好きなフィギュアスケートは依然マイナースポーツで、たまたま勘違いや幸運な偶然が重なって今ブームになってるけど、それはスポーツとして捉えられてないから、アイドルと間違えられているから、スポーツとしてはマイナーなことに変わりはない、その地点から見つめ直さないといけないんだ。
今のフィギュアスケートマスコミの現場って相当どこも混乱しているように思えて、テレビだけじゃない、雑誌なんかでもそう。中継局は2つくらい、雑誌も2誌+でかい試合後のムック1冊くらいでいいと思うのに、ブームで皆よってたかってなんでもかんでも出そうとして結果としてどれも密度が薄まって大事なものがすり減っていっているような気がして、作っている人達が大事なものを忘れ(させられ)たか捨て(られ)たか無くしたか隠した(隠された)か渡そうとしてるのに受け取ってもらえないのかないがしろにしてる(されてる)のかわからないけど、人によって様々なんだろうけど、とにかく一旦落ち着いて、と思う。でも、もう五輪まで1年切ってるから落ち着くタイミングなんてないんだろうな。でも私は落ち着きたい。
なんだかそう思って、ただまっさらな状態で彼ら彼女らの演技と向き合いたいなあと思って、今、あんまり情報入れないようにしてます。まっさらな状態で自分が何を感じるかを知りたいから。いくら情報に踊らされても彼ら彼女らの本当の答えはリンクの上で描かれるものにしかないから。その答えをきちんと掴めるかどうか、それだけが大事なことだと思うから。それができないとしたら、私には何も言う権利も書く権利もない。権利があるのかどうかを知りたい。ただ、誰にも邪魔されず、適切な距離を探ってそれを保ちたいだけなんだ。